卵子凍結・胚凍結前の検査:AMHとAFCがカギ
卵子凍結や胚凍結を行う前に、最も重要なのが「卵子の在庫量」を知るための血液検査です。
検査項目の一つである AMH(抗ミュラー管ホルモン) は、卵巣内に現在どれだけ卵子のストックがあるか(約6か月間の目安)を示す指標です。AMH値が高いほど、1回の採卵で得られる卵子の数が多く、AMH値が低いと採卵数は少なくなります。
採卵前には、卵胞数(AFC)検査を行うこともできます。
AFCは1か月以内の短期的な卵胞数を示し、AFCが高ければ採卵数が多く、AFCが低ければ採卵数が少なくなります。
一般的に、AMHとAFCは正の相関関係にあり、AMHが高ければAFCも高く、AMHが低ければAFCも低い傾向があります。
もし採卵周期において「AMHが高くAFCが低い」場合は治療実施の延期が、また「AMHが低くAFCが高い」場合はチャンスをしっかりと見極めて早めに治療を行うことが推奨されます。
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年齢が凍結卵子・胚の質に与える影響
凍結卵子、凍結胚の質は、いずれも年齢と深く関係しています。
経験的な数字ではありますが、正常な卵子を1個得るために必要な卵子の個数は、34歳以前ではおよそ 7~10個ですが、34歳を過ぎると卵子の質は年々低下するため、正常な卵子を得るための採卵個数は徐々に増えていきます。38歳前後では 卵子15~20個、40歳以降では 20~40個の採卵が必要だと考えています。
胚胎の質も年齢の影響を受けるため、34歳以降では質も年々低下します。染色体正常胚を得るために必要な胚の個数は一般的に以下のとおりです。
‐34歳以前:2~3個
‐35~38歳 : 3~4個
‐39~40歳 : 4~5個
‐40歳以降 :6~10個以上
卵子凍結と胚凍結、どちらを選ぶ?医療と法律からみた違い
現行の法律では、未婚の方は卵子凍結が、既婚であれば卵子凍結、胚凍結いずれも選択できます。
医療面から見ると、がんを患っている女性が化学療法(抗がん剤治療)や放射線治療を受ける前には、卵子凍結または胚凍結を行うことが強く推奨されます。将来的に妊娠の予定があるかどうかに関わらず、これは「予防医療」の一環であり、「生殖力の保険」としての役割もあります。
費用の面から考えるとどうでしょうか。
もし AMH値が低く複数回の採卵が必要な場合は、卵子をその都度凍結しておき、後に胚を凍結する方が、費用を抑えられることがあります。
一方で、38歳以上 の場合は、卵子の融解後生存率を考慮すると、最初から胚培養まで行って凍結しておいた方が妊娠成功率の向上につながるためおすすめです。ただし、その分費用はやや高くなります。
1回の採卵で10個以上の卵子が得られており、安定した結婚関係があり、また今後5年以内に妊娠を考えている という方は、胚凍結を選ぶのがよいでしょう。
胚は卵子よりも凍結・融解後の安定性が高く、将来の治療効率を高めることができるのです。
胚と卵子の違い:単細胞と多細胞による安定性の差
凍結卵子は、受精させて胚に培養した後、新鮮胚移植または凍結胚移植を行うことができます。
一方で、新鮮な卵子も同様に、そのまま凍結保存することも、受精させて胚を作ることも可能です。
つまり、新鮮卵子でも凍結卵子でも、受精・培養して胚を作ることができ、新鮮胚でも凍結胚でも、その後の胚移植を行うことができます。
卵子と胚の最も大きな違いは、細胞構造にあります。
胚はすでに受精卵であり、精子と卵子が結合して分裂・成長した細胞の集合体です。成熟した胚盤胞(ブラストシスト)には、およそ100〜200個の細胞が含まれています。
一方、卵子は単一の細胞であり、1つの細胞核と1つの細胞質しか持ちません。そのため、胚盤胞のような多細胞構造に比べると、卵子は凍結・融解の過程で細胞骨格の変化を受けやすく、ダメージに弱いという特徴があります。
臨床的にも、38〜40歳以降の女性では、凍結卵子の融解後の生存率がやや低くなることが確認されています。
その原因として考えられているのは、卵子内部の細胞骨格の変化や、細胞内小器官(ミトコンドリア、エクソソーム、中心体など)の機能変化です。
これらの変化によって、卵子が凍結・融解のプロセスに耐えられず、細胞死を起こすことがあるとされています。
そのため、38歳以上で安定した結婚関係がある女性には、臨床的には卵子凍結よりも胚凍結を選択することが推奨されています。
研究による実証:年齢と卵子生存率の関係
2022年、アメリカ・ニューヨーク大学の研究で、卵子凍結を行った543名の女性を対象に、合計8,526個の卵子を融解した結果、卵子の生存率は79%であることが報告されました。
その他、年齢別卵子融解時生存率は以下のとおりです
‐38歳未満 77%
‐38~40歳 82%
‐41歳以上 76%
この結果からは、年齢が卵子凍結後の融解時生存率に明確な影響を与えるとは言えないように見えます。
しかし、データを詳細に分析すると、融解した後に使用可能な卵子がまったく残らなかったケース(卵子がすべて細胞死)において、年齢差が明確に現れました:
‐38歳未満では0.5%
‐38~40歳では2.3%(221名中5名については、卵子融解後にすべて細胞死)
‐41歳以上では3.3%(60名中2名については、全卵子融解後後にすべて細胞死)
つまり、38歳以上では融解後に卵子が全滅するリスクが高くなることが示されています。平均値としては年齢の影響が小さく見えますが、38歳以上の女性では卵子全滅の可能性が確かに高まるといえるでしょう。
そのため、38歳以上で既婚の女性には、卵子凍結よりも胚凍結を優先的に検討することが推奨されます。
既婚女性で1回の採卵数が少ない場合、卵子凍結と胚凍結どちらを選ぶ?
38歳までは卵子凍結、38歳以降は胚凍結
前述の内容を踏まえると、1回の採卵個数が少ない場合(10個未満)では、38歳未満の既婚女性は、複数回に分けて卵子凍結を行うことで、胚凍結に比べて費用を抑えることができます。
一方、39歳以降では、卵子の凍結・融解後の生存率が低下する傾向があるため、最初から胚凍結を行うことが強く推奨されます。
また、胚凍結にはもう一つの利点があります。
早い段階で目標とする数の胚を確保できれば、その時点で採卵を終了できるという点です。
卵子凍結・胚凍結は自然妊娠に影響しない
インターネット上では、「卵子や胚を凍結したら、その後は体外受精(IVF)しかできないの?」「もう自然妊娠はできないの?」といった噂を目にすることがあります。
しかし、卵子凍結や胚凍結を行っても、自然妊娠の可能性が下がることはありません。たとえ凍結保存された卵子や胚があっても、それを必ず使う必要はありません。妊娠を希望する場合は、まず自然妊娠や排卵日に合わせたタイミング法から試してみることも可能です。
ただし、凍結卵子はそのまま体内に戻すことはできません。
一度融解し、受精させて胚に育ててからでないと、子宮に戻すことはできません。
保存期間:医療的には無期限、法律的には制限あり
多くの国際的な研究や臨床経験によると、卵子凍結・胚凍結には実質的な保存期限はありません。
現在主流となっている「ガラス化法(Vitrification)」による急速冷凍技術では、冷凍保存液の働きにより、低温下で水分子が形成する氷晶の破壊力を最小限に抑えることができます。
そのため、胚や卵子の細胞内にある細胞小器官も適切に保護され、長期保存が可能となっています。
実際、アメリカでは30年以上前に凍結された胚を法的手続きを経て他の夫婦に提供し、移植後に妊娠が成立したという報告もあります。
このことから、保存環境が適切に管理されていれば、胚の保存には実質的な時間制限がないことが証明されています。
また、臨床の現場でも、9年間凍結していた卵子を融解し、妊娠に成功した例があります。
医療技術的には、卵子凍結・胚凍結ともに保存期間に制限はありません。
しかし、法律上の規定として、胚の保存は最長10年まで、卵子の保存は10年を超えても状況に応じて延長可能とされています。
したがって、卵子や胚を凍結保存する際には、保存期限の法的制限に注意することが必要です。(実際は、実際には10年以上経ってから再利用されるケースは非常にまれです)
まとめー 未来の選択肢を残すために
外来では、卵子凍結や胚凍結を「人生における必要な選択肢」として考える女性が増えています。特に未婚の女性は卵子凍結を重視し、新婚のご夫婦では胚凍結を選ばれる方も多く見られます。
このような選択肢があることで、時間の経過による焦りやプレッシャーを和らげ、昇進・転職・進学など、人生のさまざまな挑戦により落ち着いて向き合うことが可能になります。
未婚での卵子凍結、既婚での卵子・胚凍結。皆さまがご自分にとって最適な選択を見つけられることを心より願っています。
よくある質問(FAQ)
Q1:卵子凍結と胚凍結、どちらの妊娠成功率が高いですか?
胚凍結(凍胚)の方が、卵子凍結(凍卵)よりも全体的な妊娠成功率は高いとされています。胚は多細胞構造であるため凍結・融解後の安定性が高いこと、一方卵子は単一細胞であるため、凍結過程での影響を受けやすいことが、その主な理由です。
そのため、38歳以上の女性や既婚で近い将来に妊娠を希望している方は、胚凍結を優先して選択することが推奨されます。
Q2:卵子凍結に適した年齢は何歳ですか?
卵子凍結に理想的な年齢は、30~34歳 とされています。
この時期は卵子の質と量が最も良好であり、必要な採卵回数も少なくて済みます。
一方、38歳を過ぎてから凍結する場合でも、生殖能力を保存することは可能ですが、融解後の卵子の染色体正常率、そして胚の着床率は低下する傾向があります。
Q3:自分が早めに卵子凍結すべきかどうかはどう判断できますか?
血液検査で「AMH(抗ミュラー管ホルモン)」を測定することで、卵巣の機能を確認できます。
✅AMHの値が高い:卵巣内の卵胞数が多いことを示します。
✅AMHの値が低い:卵巣の予備能力が低下していることを示します。
30歳前後の若いうちに検査を受け、結果をもとに医師と相談して卵子凍結のタイミングを決めることが推奨されます
Q4:卵子凍結や胚凍結は自然妊娠に影響しますか?
いいえ、影響はありません。
凍結卵子や凍結胚はあくまで保存であり、その後の自然妊娠の可能性を下げることはありません。
女性は引き続き自然排卵・自然受精が可能です。
凍結した卵子は、必要なときに融解し受精・培養して胚にしてから移植することになります。
Q5:未婚女性は胚を凍結できますか?
現行の「人工生殖法」によると、未婚女性は卵子凍結のみ可能であり、受精させて胚を作り凍結することはできません。
人工授精や胚凍結は、合法的な婚姻関係にある場合のみ認められています。
Q6:卵子凍結後、どのくらいの期間で融解して使用できますか?
特に使用までの強制的な期限はありません。凍結後2~10年経ってから使用されることが多いですが、国際的には30年以上保存された卵子でも妊娠に成功した例も報告されています。
使用のタイミングは、個人の結婚状況・健康状態・妊娠計画によって決まります。
医師は状況に応じて、治療のスケジュールや胚移植の戦略を調整します。
筆者
専門分野:不妊治療、体外受精(IVF)、人工授精、卵子凍結(凍卵)、精子凍結(凍精)、卵子提供、精子提供、反復流産、生殖免疫異常評価、早発閉経
NUWA医療には多数の不妊症専門医および1万人以上の体外受精成功実績を持つ医師チームが在籍しています。
全部で5軒あるクリニックには、高規格の体外受精生殖センターが3軒、漢方クリニックが2軒、国際レベルの胚培養実験室が3軒が含まれ、台北、桃園、台中の3都市に設置されています。